ひと通りの説明
重大な交通事故被害者のご家族のために、権利と立場、解決方法の全体像を説明します。
本人と家族の立場と権利
1.本人
事故にあった本人は、被害と引き換えに「権利」を手にします。
相手に弁償(損害の賠償)を請求できる権利、すなわち「損害賠償請求権」です。
本人の状態がどうあれ、本人が手にした権利は、本人のものです。
本人が障害などのために動きづらいときも、本人が、その意思で家族や弁護士を代理人に選任することになります。
2.家族
3つの立場
家族であるあなたは、①本人を助ける立場(本人を支える)か、②本人の法定代理人の立場(権利を預かる)か、もしくは③本人を相続する立(権利を引継ぐ)場の、いずれかです。
①は家族独自の立場ではありませんから、②と③について説明します。
本人の法定代理人
上述のとおり、本人の権利は本人にもので、本人が動けないときは本人が代理人を選任します。
問題は、本人が自ら動けない上に「代理人の選任もできない」場合です。
これには2パターンあります。
- ひとつは、本人が未成年の場合です。
未成年者は、法律上、「自ら行動できず、代理人の選任もできない」立場だとされています。 → 未成年者の立場
その代わりに、親権者が当然の代理人(法定代理人)とされ、親権者が本人のために行動するのです。親権者は、いわば、本人が成人するまで本人の権利を預かる立場です。示談交渉等の途中で本人が成人したときは、本人に権利を戻します。 - もうひとつは、本人が成人でありながら、脳障害・意識障害等のために判断能力を持たない場合です。
本人は「自ら行動できず、代理人の選任もできない」状態ですから、誰かが、本人の代理人とならなければならない。それが「成年後見人」であり、家庭裁判所に申請して選任してもらう必要があります。成年後見人には、家族が就任することも、第三者(弁護士など)が選任されることもあります。
本人の相続人
相続人は、本人の権利義務を相続(承継)します。相続人が複数のときは、原則として全員の共有です。 → 誰が相続人か
通常は、代表者を定めて、代表者が行動(権利行使)したり 弁護士に相談したりします。
相続について懸念がある場合は、その件も含めて弁護士に相談するといいでしょう。 → 相続の注意点
3.示談・裁判
本人が手にした「権利」の処分は、相手との交渉がまとまれば示談、決裂のときは裁判で決着します。
示談や裁判を実行するのは、本人か、法定代理人(親権者・成年後見人)か、相続人です。
4.弁護
家族が動かざるを得ない状況の場合、家族の方は、心理的ストレスを抱えることが多いと思います。
弁護士に相談して、必要なら弁護(サポート)を依頼してください。
なお、示談や裁判について弁護士に依頼する場合も、弁護士と契約は、本人か、法定代理人(親権者・成年後見人)か、相続人が行うことになります。
弁護士に依頼したら、実際の交渉・裁判手続は弁護士が遂行します。
以下では、本人が動く場合と家族が動く場合を区別せず、一般的に説明します。
解決の、手順と手続
1.全体の流れ
交通事故でケガをすると、治療 →症状固定 →後遺障害申請 →示談( →裁判)と進みます。
治療から症状固定までの間が、「治療中」の期間です。
- 仕事・日常生活に戻れるなら上で、保険会社の治療費負担の下で、治療していくことになります。
- 仕事・日常生活に戻る状況ではないなら、保険会社から治療費負担の他に休業損害を取り付けて、治療に専念します。
症状固定になると、示談に向けた手続・交渉の段階に進みます。
- まず、後遺障害があるなら認定を申請します。 → 後遺障害の手続
- 後遺障害の有無・等級が定まったら、損害額を算定して示談交渉です。
2.二つの交渉
整理すると、保険会社との交渉には、次の二つがあります。
- 治療中の交渉
被害回復措置の原資を確保する等のため、何かにつけて交渉しなければなりません。 - 示談の交渉
治療の区切りがついて、後遺障害の評価を受けたら、最終的な交渉のスタートです。
多くの方は、1は自分たちでこなし、2の途中で弁護士に相談するかどうかを悩みます。
弁護士の経験から言うと、2についての相談は必須であり、1についてもできるだけ早い段階で相談するのがいいのですが・・・
3.治療中の交渉のこと
詳細は別ページで解説します。 → 治療中の交渉、治療中に揉めた場合
ここでは代表的な項目のみ指摘します。
次のような点で交渉が必要になることが多いです。
- 健康保険や労災保険を使用すること
- 治療における、転院(整骨院を含む。)や、重複受診、先進的医療のこと
- 症状固定について、治療費の支払をいつまで行うかのこと
- 休業損害、その他の実費の仮払いのこと
双方の認識が一致しているうちは揉めません。それでも、交渉自体がストレスになったり、心理的な「借り」となって後の示談交渉に事実上影響することもあります。
また、双方の認識がズレてくると、交渉は大変で、ストレスフルです。
4.示談の交渉のこと
詳細は別ページで解説します。 → 示談の交渉
ここではポイントを要約します。
あなたは確かに「損害賠償請求権」を持ってます。それは、紛れもなくあなたの「権利」です。
でもあなたは、すぐにもそれを手放したいはずです。とにかく引き取ってもらいたいはずです。つまり、あなたの「権利」は、あなたにとって「重荷」なんです。
あなたは被害者だけど、交渉をしなければならない立場。その上、重荷を抱えています。
保険会社は、できるだけ安く買おうと思って、硬軟おりまぜた手法で交渉してきます。
あなたは抵抗できないかもしれず、抵抗しても「重荷」に耐え切れずに折れてしまいます。
交通事故の被害者は、保険会社と対等に交渉できないのが普通です。
5.弁護士による交渉
治療中の交渉も、弁護士に任せた方が安心です。特に、治療が長期にかかり、交渉期間も長くなる方はなおさらです。
また、示談の交渉は、弁護士を入れるかどうかで、交渉のパワーバランスが大きく変わります。
弁護士が、あなたの重荷を引き受け、法と理により交渉のペースを握り、巻き返します。
それではじめて対等以上の交渉となり、あなたの正当な権利が実現します。
問題の、傾向と対策
1.道のり
治療中の交渉での代表的な問題は、ひとつは治療費の打ち切り、もうひとつは後遺障害の等級認定です。
- 治療費の打ち切り
治療が終盤に差し掛かると症状固定の時期になります。症状固定を受け入れると、事故での治療は終了です。症状固定を受け入れない場合は、保険会社が治療費の支払を打ち切ってくることがあります。 - 後遺障害の等級認定
症状固定になった(受け入れた)とき、症状が残っていれば後遺障害の認定を申請することになります。後遺障害の有無・等級は損害額(示談金)に大きく影響するので、正しい認定を受けることが大切です。
一方、示談交渉における典型的な争点は、損害査定、過失割合です。
なお、本人の「権利」の他に、家族自身の「権利」を請求できる場合があります。 → 家族としての損害
- 損害査定
後遺障害の有無・等級が定まったら、損害額を算出できるようになります。 - 過失割合
出てきた損害額に、過失割合を掛け合わせたものが、損害賠償額(示談金)です。
損害賠償額(示談金)について双方でやりとり(交渉)し、合意できたら示談、決裂なら裁判です。
それぞれにつき、順次、説明しましょう。
2.症状固定
症状固定とは、治療の区切りがついて、症状が安定した状態のことを言います。
治ったという意味ではなく、症状が残っていても症状固定に至ります。
基本的に医師による医学的判断ですが、実際には、医師は患者(被害者)の意向を酌み取って判断するのが通常です。このため、症状固定に至っているかどうかが争点となる場合があります。
保険会社が「治療費の打ち切り」を言ってきた場合、その意味は「もう症状固定でしょ」という投げかけです。そんな話が出たときには、何より、主治医に相談してください。
- 主治医が「まだまだ症状固定に至っていない」と判断している場合は、その協力の下で保険会社と交渉することで、症状固定を先延ばしにすることができます。
- 一方、あなたがまだと思っていても、主治医は症状固定時期と判断していることもあります。そうであれば、症状固定の受け入れを検討するべきでしょう。 → 「打ち切り」に対抗する?
3.後遺障害
症状固定を受け入れたら、後遺障害申請の準備です。
症状固定のときに残っている症状が、将来も残存し、労働の障害となるレベルの場合は、自賠責に申請して後遺障害の認定を受けられます。
後遺障害には1~14級の等級があります(14級が軽い)。 → 交通事故の後遺障害
ただし、残った後遺「症状」のすべてが後遺「障害」ではありません。
問題なのは、実際は後遺障害レベルの症状が残っているのに、後遺障害と認定されない(もしくは低い等級の認定になった)場合です。
そういったケースは、たいてい「証拠不足」が原因です。
証拠不足の原因は、治療に誠実に取り組まなかったか、医師に症状をきちんと伝えなかったか、理解のない医師にあたったか、検査不足か、といったことが考えられます。
いずれにしても、治療中から対策できる(対策すべき)ことです。医師から治療方針・見通しについて説明を受ける中で、相応の症状が残存する可能性があるとなったら、早い段階で弁護士に相談しておくのが望ましいと思います。 → 後遺障害を正しく認定される方法
4.損害査定
後遺障害の有無・等級が決まれば「損害」を算出できます。「損害」とは、あなたの「被害」を金銭換算したものです。
金銭換算の手法は複数あって、同じ被害でも、換算方法次第で損害額は変わってきます。平たく言うと、保険会社の査定方法は安く、弁護士(ないし裁判所)が採用する査定方法だと高くなります。その差が2~3倍になることも珍しくありません。 → 被害を損害に換算する方法
たとえば慰謝料ひとつ取っても、保険会社の査定方法と、弁護士の査定方法では全く違います。 → 交通事故の慰謝料
5.過失割合
損害額を積算したら、それに過失割合をかけます。あなたに過失がある場合は、その分を差引くのです。
それで出てきた金額が、示談成立時に受領する示談金であり、交渉決裂時に裁判にかける損害賠償請求権の額面です。
なお、過失相殺については、自賠責のやり方が特殊であること、相手の損害の一部負担の問題があることに、注意が必要です。
【ポイント】 過失割合による過失相殺と過失責任
弁護士の効能と費用
1.タイミング
上述のとおり、保険会社との交渉には、治療中の交渉と、示談の交渉があります。
多くの方は、示談交渉の途中で、思い通りに行かないことに気付いてから、弁護士に相談するかどうかを悩みます。しかし、
- 治療中の早い段階から、弁護士に相談しておいた方がいいです。
ストレスが大きいときは、治療中から弁護(サポート)を依頼することも検討すべきでしょう。 - 少なくとも、示談する前に、弁護士の話を聞くのは必須です。
ここは悩むところではありません。
もっとも、治療中の交渉については、真摯に取り組む弁護士が少ないのが現実です。
残念ながら、相談しても回答がなく、依頼を引受けてもらえず、引受けても対応がずさん、といった展開となることがあるかもしれません。
これは専門性の問題です。やり馴れてない弁護士にとっては、治療中の細々した諸々の対応は、面倒事でしかないのです。
依頼後、途中で弁護士をチェンジすることはできます。でも混乱するので望ましくない。予めホームページ等をチェックし、法律相談の場のやりとりで見極めて、依頼することが大切です。
アトラス法律事務所は、交通事故に専門的に取り組んでいます。
経験を通して、後遺障害や示談の準備が治療中にはじまることを知ってます。被害の重い方にとって、治療中こそ、ストレスが強く、相談・弁護(サポート)のニーズが大きいことも承知しています。
治療中のこそ弁護士の力が必要であり、極めて有益なのですから、喜んで相談・依頼を引受けております。
2.弁護士費用
弁護士に依頼することは、「サービス(役務)」の購入です。10万円単位(事件規模によってはそれ以上)の「サービス」を買う機会は、人生でそうそうないでしょう。弁護士がもたらす価値を知らないうちは、高く感じられるかもしれません。
でも、少なくとも交通事故被害に関して言えば、実は、弁護士費用は大した問題ではありません。
なぜって、交通事故というジャンル自体、弁護士を入れるメリットがとても大きく、十分な費用対効果となる紛争類型だからです(物損事故や、ごく軽傷の場合は別)。
その上、保険会社相手なら確実に回収できますから、弁護士との契約も、少額の手付け金で依頼し、残りは回収金からの「後払い」にできます(アトラス法律事務所の場合)。
3.弁護士費用特約
自動車保険では、本人ないし家族が被害にあったときに使える項目があります。とりわけ「弁護士費用特約」を使えるなら、弁護士費用の自己負担がゼロ(ないし僅か)となります。 → 3つの「保険」のこと
ただ、たとえ自分の側でも、保険会社は保険会社です。頼りすぎるのは良くありません。 → 保険会社に頼るリスク
弁護士費用特約は、自分の側の保険会社から保険金(弁護士費用)を出してもらい、自分で選んだ弁護士への支払に使えるシステムですから、とても有効です。 → 弁護士費用特約のメリット
弁護士費用特約があっても、弁護士と契約するのは あなたであり、弁護士に費用を支払うのは あなたです。その、あなたから弁護士への支払を、あなたの保険会社が(特約の範囲で)肩代わりしてくれるのです。
ただし、特約で弁護士費用全額を賄えるとは限りません。特約には限度額があって、事件規模が大きくなると限度額では不足するし、保険会社によっては(限度額の範囲内であっても)費用の一部しか出さない場合もあります。
実例としては少ないですが、こういった場合、弁護士費用の一部が自己負担となります。
極くまれに「弁護士費用特約で不足でも、自己負担をゼロにしてください」と言う人がいます。
被害規模が大きい場合は、自己負担をゼロにする正当な方法があります(後述)。
一方、その方法を取れない(取らない)場合は、「自己負担ゼロ」って単にディスカウントの要求です。これに応じる弁護士は少ないでしょうし、応じる弁護士は不適切だと思います。
たとえ全部ではなくても、弁護士費用特約で負担が大きく減るのですから、信頼できる弁護士とフェアな契約を結んで、万全のサービスを受けるべきです。
アトラス法律事務所では、弁護士費用特約の有無・内容にかかわらず、弁護士費用の計算は基本的に同じです。きちんと報酬規程を定めて、フェアに運用しています。
4.自己負担ゼロの方法
交通事故で、被害規模が一定規模以上の場合に限りますが、弁護士費用特約の有無・限度額にかかわらず、弁護士費用の実質的な自己負担をゼロにする方法があります。
それは「裁判を提起する」ことです。 → 弁護士費用を相手から回収する方法
裁判が前提となるためか、この方法について言及されることは少ないですし、積極的に勧めるつもりもありません。
ただ、最終的にどう判断されるかはともかく、判断の材料としては、知っておくべきだと思います。