治療中に揉めた場合
途中で揉める場合
治療中に加害者側(保険会社)と揉める場合には、2つのケースがあります。
- 最初から「治療費」負担を拒否されるケース
- 途中から「治療費」等を出さないと言われたり、特定項目について支払拒否されるケース
このページでは、上記のうち2のケースについて説明します。
上記1は、事故態様や過失評価に大きな争いのある場合であり、交渉解決はまず不可能です。その場合、自分の自動車保険の「人傷傷害保険」を使えるなら、それが最善だと思います。
揉める背景
交通事故の被害者は、事故と同時に「損害賠償請求権」を手にします。
でも、いくらの請求になるかは、事故と同時には決まりません。治療がどうなるか、いつまで仕事を休むか、後遺障害が残るかなどによって、請求額は変わるのです。
保険会社との交渉にあたっては、「日々の支払」(リアルタイムの出費・損失の補填)と、「最終の損害」(総額)について、分けて考えた方が分かりやすいです。
なぜなら、「日々支払」と「最終損害」の捉え方は、被害者と保険会社で180度 違うからです。
- 被害者は、「日々支払の積み重ねが、最終損害」だと考える。
つまり被害者は、最終損害がいくらになるかは関係ない、いくらになっても保険会社が負担するのが当然だ、と思ってます。 - 保険会社は、「最終損害の取り崩しが、日々支払」だと考える。
つまり保険会社は、最終損害が(想定を)超過するのを避けるため、日々支払の補填を制限すべき場合もある、と考えてます。
言い換えると、
- 被害者が、「今」だけを見て、リアルタイムに 請求するのに対し、
- 保険会社は、「最後」の想定から翻って、今 払うかを判断します。
このズレのために、「被害者の請求を、保険会社が認めない」という事態が生じるのです。
揉める原因
揉める2つの局面
治療中に揉めるケースには、2つの局面があります。
- ひとつは、軽症の場合で、治療費や休業損害について揉める場合です。①期間が長くなったときに、保険会社から支払の打ち切りが言われたり、②転院や並行通院(整骨院含む。)、先進医療といった件で、費用の支払を拒まれる場合もあります。
- もうひとつは、重度の後遺障害が残る見込みの場合です。症状固定を受け入れるに際して諸々の準備が必要となりますが、そのための保険会社との協議で、ときに揉めます。
以下では、軽症例で揉める場合について説明します。
重度後遺障害の場合は、個別事情の要因が大きいので、一般化した説明は難しいです(法律相談を受けることをお勧めします)。
軽症例で揉める場合
軽症例で、治療中の被害者の「今後の展開」は、次の3パターンのどれかです。
- 治療・休業が、一般的ケースの範囲内で終わる
- 治療・休業が、一般的ケースよりも長引いてしまう
- 治療・休業の必要がないのに、賠償金を得るため長引かせる
このうち1は揉めず、3は当然揉めます。
問題は2です。
治療途中に、保険会社が「想定より長引く」懸念を抱いて、被害者に支払の打ち切りを通告してプレッシャーをかけてきた場合(もしくは、それが心配される場合)に、被害者において、どう対処すべきかが問題となります。
弁護士が相談を受けるのは、常にこのパターンです。現実に、軽症例(打撲・捻挫・ムチウチ)では、
- 事故自体が非常に軽微なら、1~2ヵ月で打ち切りの話が出る場合があります。
- 相応の衝撃のあった事故でも、3~5ヵ月で打ち切りの話が出ることが多いです。
揉めたときの対処
軽症例で揉める場合の2タイプ
上記のパターン2(治療・休業が、一般的ケースよりも長引いてしまう)を、さらに細分すると、たいてい次のどちらかのタイプです。
- 本件に特有の「医学的な要因」があり、長引いている原因を合理的に説明できる場合
- 被害者の「心理や環境に問題」があり、長引いた原因はもっぱらそれに由来する場合
保険会社から打ち切りを言われたとき(それが懸念される場合)は、まず「医学的な要因」があると評価できるどうかについて、医師に相談してください。
医師の協力が得られるなら、保険会社との交渉も、有利に進められるでしょう。
一方、医師の協力が得られないなら、あなたの件は「心理・環境」タイプにあたります。交渉は難航すると思ってください。
「心理・環境」タイプの展開
おそらく通常は、次のいずれかを選択することになるでしょう。
弁護士を入れても同じです。
- そう遠くないキリのよいタイミングまでの治療継続を交渉するか
- 治療の終了(症状固定)や、方針変更(入院から通院への切替え)を受け入れるか症状固定後に治療継続しても結構です。ただしその費用は自腹です。
- 現時点での交渉解決は諦め、自費で治療継続するか
上記3を選択する場合は、①納得いくまで自費で治療継続し、②自分で区切りだと判断したタイミングで後遺障害を申請して、③おって示談ないし裁判で請求していく、という展開になります。
うち①については、自費でまかう資力のあることが大前提です。
自賠責保険に「被害者請求」という制度があり、一旦は自費の用立てが必要なものの、回収サイクルは速いです。自賠責の限度額が残っている場合に限りますが、加害者側保険会社より認定が緩いので、必要なら手続を取ってください。自賠責には「仮渡金」制度もありますが(重傷度に応じ5万円~40万円)、治療終盤に請求しても難しい場合が多いと思います。
また、②に関しては、後遺障害申請は「被害者請求」と呼ばれる手間のかかる手続となるし、示談交渉は難航するので、裁判を想定しておく必要があります。
その上、示談にしろ裁判にしろ、最終的に自費の治療費等を回収できる保障はありません。
自費で治療継続することを選択する場合、このような手間暇とリスクを引受ける覚悟が必要です。
判断に迷うときは、弁護士に相談することをお勧めします。