治療中の交渉

目次

治療中に必要な交渉

特有の難しさ

症状固定して後遺障害の結論が出たら、被害の全体像が見えます。それから交渉するのが示談交渉です。

しかしそれ以前の治療中から、様々な経費・補填のためにリアルタイムでお金が必要です。そのために、相手(保険会社)ともろもろ交渉を重ねなければなりません。

たとえば、

  • 治療費、治療関係費の負担の問題があります。
  • 仕事できないケガなら、生活費の問題もあります。
  • 重い後遺障害が残る場合、環境を整える費用も問題です。

治療中の交渉は、被害が未確定・進行中のために全体像が見えない中で、「暫定的な仮の合意」を結んで費用確保していくものです。これには特有の難しさがあります。
一般的に「必要・相当な費用」と言えるものなら問題なく払われることが多いでしょう。でも、必ずしもそうとは言えない費用もあります。被害者にとって「必要」と思う費用でも、その必要性が客観的に明確とまでは言えないものの場合、紛糾します。

紛糾した場合

次のように考えるしかありません。

  1. 必要性の資料を収集・提出して、交渉する。
  2. 話がつかないなら自費で出し、示談交渉時に改めて請求する。

交渉で通るといいのですが、その場合も、「認めてもらった」と心理的な「借り」に感じてしまうと、示談交渉時に「引け目」となるので要注意です。

また、やむなくとする場合は、今は割切るしかありません。
もし「被害者なのに、必要な費用さえ出してもらえなかった」と恨みを持てば、それ自体が大きなストレスとなり、かえって苦しむことになります。それでは本末転倒でしょう。

交渉を持ちかけるもの

保険会社に対して交渉を持ちかける、代表的なものです。

  • 1.治療費、治療関係費

    主治医となる医療機関の治療費は、通常、問題ないでしょう。ただし、治療が長くなったときの打ち切りの問題、並行通院・転院、先進医療、整骨院などは要交渉です。
    なお、事故態様(過失)に大きな争いがある場合や、加害者が何らかの理由で保険を使わない場合には、治療費負担からトラブルになることもあります。
    そういった場合は、交渉での解決は見込めないでしょう。自分の自動車保険の人身傷害保険を使ったり、自賠責の被害者請求制度を利用して原資を確保してください。

  • 2.休業損害

    ケガのために仕事ができなくなった方は、実費ベースで休業損害の仮払いを請求してください。それで生活を確保し、治療に専念します。ただし、期間が長くなった場合の打ち切りの問題、「(事故当時の)収入」が明確にできない場合などは要交渉です。

  • 3.交通費、雑費

    資料を揃えれば、治療中から請求できる可能性があります。

  • 4.その他の実費費用~装具・改修費など

    重篤な後遺障害が残る方には重大な問題です。資料を揃えて請求することになりますが、基本的に、要交渉です。

    なお、一時しのぎのやり方ですが、「項目を特定しない”一時金”の仮払い」として交渉するパターンもあります。たとえば、三台目の車いすが欲しい場合、保険会社と交渉して、「車いす代と特定せずに、購入できるだけの一時金を受取って、自分の裁量で車いす購入費に充てた」形にするのです。
    室内用・屋外用の他に、リハビリ用の特殊なタイプが必要といった場合。一台目は当然出て、二台目も恐らく交渉可能ですが、三台目の交渉は難航します。保険会社としては、「車いす代」名目で払うと必要性を認めたことになる、と言って嫌がります。

    中途半端なやり方に思われるかもしれませんが、リアルタイムに必要な費用を捻出するには、名目より実利です。こういった現実的な手法も、考えていくべきだと思います。
    ただし、この交渉は、保険会社の担当者次第という要素も強いです。

交渉を受けるもの

保険会社の方から交渉を持ちかけられる、代表的なものです。

  • 1.自賠責「一括払い」の同意

    交通事故の被害者は、自賠責から治療費等を支払ってもらえます。その手続を、相手の保険会社が代行するための書類です。
    治療開始後すぐに、保険会社から連絡があると思います。通常、同意して問題ありません。

  • 2.健康保険や労災保険の使用

    重傷の方は、治療について健康保険や労災保険を使用するよう相談される場合があります。上記した自賠責「一括払い」の件と一緒に言われることが多いです。
    これに対する対応は悩ましいですが、原則として「使えるものは使う」と考えるべきだと思います。福祉的な給付金を得られる場合もあり、助かります。
    ただし、次の点に留意してください。

    1. 軽傷の方が使うと、簡単な治療しか受けられなかったり、並行した通院に制限がかかったり、治療期間が長くなると医療機関との交渉が必要になったり、といったリスクがあります。
    2. 労災を使うと、治療状況や、治療終了時期について、労基署からチェックを受けることになります。ただこれは、治療に区切りをつける「目安」が得られるものとして、積極的に考えてもいいかもしれません。
    3. ご自分の自動車保険を使う場合に影響する可能性があります。たとえば弁護士費用特約には、「労災事故は対象外」といった制限のあるケースがあります。保険の約款を確認しましょう。

  • 3.症状固定

    最もトラブルになるのが、治療費の打ち切りの問題です。
    これは、「もう症状固定なので、治療費の支払をストップします。後遺障害の申請に進んでください」という交渉を持ちかけられているものに他なりません。

    対応は悩ましいですが、まず主治医に相談してください。主治医が「まだ症状固定になってない」と判断しているなら、その協力を得て保険会社と交渉することで、症状固定を先延ばしできるでしょう。
    一方、あなたがまだと思っていても、医師は症状固定時期と判断していることがあります。そうであれば、症状固定の受け入れを検討するべきかもしれません。

物損について

物損の件は、暫定的な交渉ではなく、(物損に限っての)「示談」です。
保険会社の仕組みとして、物損と人身を分け、(治療中でも)物損のみを切り分けて示談する取扱いがあり得ます。
物損とは車両等や携行品などの件です。身に着けた衣服やメガネは、通常、人身被害に分類されます。

車両等を入庫中だと、示談しないと修理などの段取りが進まないこともあるでしょう。示談するかどうか(もしくは自分の車両保険を使うかどうか)は、合理的に考えて判断してください。
ただし、過失割合を盛り込んだ示談は、後日の人身の示談にも事実上影響してきますので、慎重に考えるべきです。