請求できる損害項目

目次

はじめに

被害者の、1.ケガしたことの被害、2.後遺障害が残ったことの被害、3.生命を侵害されたことの被害を、それぞれ金銭換算して合算したものがトータルの「損害」です。
各「被害」ごとに、「損害」の項目がおおむね定まっています。

  1. ケガの損害項目は、慰謝料と、実損に分かれます。
    うち実損は、治療費、交通費、付添費(重傷の場合など)、休業損害など。
  2. 後遺障害の損害項目も、慰謝料と、実損に分かれます。
    うち実損は、逸失利益(=将来の収入減少の補償)など。また、重度の場合は、将来の介護費・治療費なども、実損となります。
  3. 生命侵害の損害項目も、慰謝料と、実損に分かれます。
    うち実損は、葬儀代や、逸失利益(=将来の収入喪失の補償)など。

上記のうち争点化しやすいものについて、以下で、弁護士基準での「相場」を説明しておきます。
細かすぎる気もします。法律相談で弁護士から直に説明を受けるのが、早くて正確です。

ケガの関係

慰謝料

入通院の期間などに応じて相場があります。たとえば、

  • 捻挫にて通院5ヶ月という場合、79万円前後
  • 骨折にて入院1ヶ月・通院1年という場合、183万円前後
  • 重傷にて入院通算1年・通院通算半年の場合、337万円前後

文献(いわゆる「赤い本」)で紹介されている金額ですが、あくまで目安です。

休業損害

休業損害は、あくまで実損なので、現に収入が減った分です。どれだけ休んでも、減収の証拠がなければ、休業損害はありません。
事故当時の状況に応じて、

  • [給与所得の方] 勤務先発行の証明書に基づき、認められます。
  • [事業者、農家の方] 証拠の調った部分が、認められます。
  • [経営者の方] 微妙なことが多いです。ただ、余儀なくされた役員報酬減額分や、「労働」対価とみなせる範囲は、可能性があります。
  • [主婦の方] 「家事労働を休んだこと」に対し休業損害が認められます。この場合、「年収360万円前後」とみなして計算します(厚生労働省の賃金統計が参照される。ただし休んだ程度・割合で調整)。
  • [投資業、年金生活の方] 通常、休業損害はありません。
  • [学生の方] アルバイト収入があれば、その限りで認められます。
  • [無職の方]は、原則として認められません。ただし具体的な就職予定があった場合は例外もあります。

これは概論ですから、詳しく事情を掘り下げると、これ以上の主張ができる場合もあります。

後遺障害の関係(一般)

慰謝料

後遺障害等級に応じて相場があります。たとえば、

  • 最も多い14級の場合、110万円前後
  • 次に多い12級の場合、290万円前後

文献(いわゆる「赤い本」)で紹介されている金額ですが、あくまで目安です。

逸失利益

逸失利益(いっしつりえき)とは、たとえて言うと「将来の休業損害」です。
これは、「年収」に「労働能力の喪失率」を掛け、さらに「労働能力の喪失期間の係数」を掛けて算出します。<>
「年収」の捉え方は、上記の休業損害の考え方と共通しますが、「将来」の問題である点が異なります(たとえば、学生の場合、将来就職することを踏まえて、賃金統計を参照した逸失利益が認められます)。

「喪失率」は、自賠責法所定の率を使うのが実務です。実はこれ、基本的に「労災」基準と同じものです。逸失利益は、「労働に影響する程度」から算定されるのです。

「喪失期間の係数」は、労働に影響がある期間を想定した上で、その年数をベースに「ややこしい計算」で調整した「係数」を採用します。
たとえば14級の場合は、年収に、自賠責所定の喪失率5%を掛けて、軽症ゆえに労働への影響は5年間ほどと考えて所定の係数を掛け、算出します。

【ややこしい計算】
一般に「ライプニッツ係数」と呼ばれます。理屈は「1年後の1万円を、今もらうなら、1年分の利息を差引いた残額をもらうのがフェア」という考え方。たとえば、年収300万円の方の5%喪失(15万円相当)が、5年間続く場合、「1年後、2年後、3年後、4年後、5年後の各15万円を、一挙に今もらう」のだから、「1年分、2年分、3年分、4年分、5年分の利息を、それぞれ差引く」ことになります。これを実際に計算しようとすると、もう「ややこしい計算」としか言いようがないのだけど、実務上は、この計算結果を「係数」に集約した数字をそのまま引用します。ライプニッツさんに感謝です。

重度後遺障害の実損

[将来の介護費]は、介護の必要性・程度に応じて平均寿命までの実費(ないし1日8000円ほど)を請求します。ただし、逸失利益と同じく、その年数をベースに「ややこしい計算」で調整した「係数」を用いて計算します。現状を維持するために医学的処置を継続する必要がある場合などに、認められることがあります。

[介護のための設備等]として、自宅改装費、福祉車両・介護用品購入費、将来の雑費(オムツ、カテーテル等)なども、合理的範囲で認められる場合があります。

生命侵害の関係

慰謝料

一般に言われる相場としては、遺族にとっての被害者の立場が、

  • 一家の支柱だった場合は、2800万円前後が目安。
  • 母親ないし配偶者という場合は、2400万円前後が目安。
  • 子の場合は、2000万円~2200万円前後が目安。

文献(いわゆる「赤い本」)で紹介されている金額ですが、あくまで目安です。

逸失利益

逸失利益(いっしつりえき)は、たとえて言うと「将来の休業損害」です。基本的には、上記した後遺障害の逸失利益の考え方と共通します。
ただし、後遺障害の場合と異なり「年金」も逸失利益の対象になります。

また、生命侵害の逸失利益では、「生活費の控除」という処理が加わることも、後遺障害と違います。
これは、「将来の収入のうち、手許に残るのは、そこから生活費を差引いた残額のみだったはず」という考え方の下、「収入がなくなる分の補償」から「生活費分」を差し引いた残りを逸失利益と認めるやり方です。
いささかテクニカルですが、裁判所も、このやり方を採用します。